子どもの頃、欠かさず見ていた番組といえばポンキッキだった。
私はポンキッキに出てくるガチャピンとムックが大好きだった。今や2人は老若男女だれからも愛される国民的キャラクターである。
あのずんぐりとしたボディラインとおとぼけフェイスの味わいにみんな夢中に違いない。
ところで、数年前からこれまでと違う装いのガチャピンとムックを見かけるようになった。
ピンクのガチャピンと青いムックだ。UQモバイルのCMや広告に出てくるので、一度は目にしたことがあると思う。
ガチャピン=緑、ムック=赤というこれまでの常識を覆す奇抜なカラーリングを見て私は思った。すごくいい! かわいさはそのままで洗練された感じがしてステキ。
そんなスタイリッシュに生まれ変わった彼らとは、UQモバイルの店舗で気軽に会えるものだから、つい店頭で立ち止まって愛でてしまう。
サイバー空間のポンキッキ。かっこいい。
すらりとした足で立ちあがったら7頭身ぐらいありそう。
どうやら長い足は三輪車にまたがる為のものらしい。
いいなぁ、このぬいぐるみ欲しいなぁ。
お店の前を通りがかる度に物欲しげに見つめてしまう。
いつものようにガチャピンとムックを眺めていると、私はある違和感を覚えた。
あれ、もしかして……? いやいや、まさか。
……明日も見に来てみよう。
その翌日、違和感は確信に変わった。
日替わりでフォーメーションが変わっている。
店先で興奮してしまった。まるで生きてるみたいじゃないか。素敵!
次の日から私は2人のフォーメーションに注目するようになった。
ギリギリまで前に出てる日もあれば、
背中を向けている日もある。
この日は豪雨だったので、店先に入りこむ雨風から身を守っていたのだろう。
晴れたら大丈夫。最前線まで攻める。
やだちょっと…! 君たち動くの?! pic.twitter.com/vRpXBmGFGq
— かとみ (@kato_mi) 2018年5月15日
初めて動きまわる姿を目にした時は、ギャーっと声をあげそうになった。
彼らは長い足で器用に三輪車をこぎ、ゆっくりと回りながら、惜しげもなくかわいさをアピールしてきた。
そういえば、なぜヒモでつながれているのか不思議だったが、こうやってポールの周りを回る為のヒモのようだ。
完全にハートを撃ち抜かれた私は、毎日彼らの様子を見に行った。
なにか内緒話でもしているのか。
お店の前を通りがかる人たちへのアピールも忘れない。
小さな子犬とすれ違った時のように、彼らを見かけた人々はウフフと微笑みかけてしまう。
この日はちょっと様子が違った。
子どもがいた……!
体とハンドルの間に挟みこんだ直チャイルドシートスタイル。大胆だ。
それにしてガチャピンの前傾姿勢がレーサーみたいでかっこいい。
と思っていたら翌日、大事故が起こっていた。衝撃映像……!
ポールを移動したらこうなってしまったのだろうか。
翌日、奇跡の生還。彼らは強い。
ちなみにガチャピン(ピンクガチャ)は龍、ムック(ブルームク)は鬼らしい。こう見えて強靭な肉体の持ち主なのだ。
4人編成で、よりかわいさに拍車がかかった。
……あれ?
こどもが入れ替わった。いや、元に戻ったというのが正しいのかもしれない。そっくり親子。
2か月が経った頃、突然ガチャピンがいなくなり、ムックだけが店頭に立つようになった。
1人きりのムック。心なしか寂しそうだ。私も寂しい。
ガチャピン失踪から5日目、しれっといつもの位置にガチャピンが戻ってきた。
ずっと心配してたんだから! どうかもういなくならないでほしい。
こうして私は来る日も来る日も2人を見守り続けた。
ガチャピンとムックのひそかな夢
長い期間2人を眺めていたらあることに気がついてしまった。
数枚の写真を連続で見ていただきたい。
もしかして
お店の外へ出ようとしてる……?
絨毯部分はお店の敷地で、銀色のラインから向こうは外の世界(アーケードの通路)。
どう見ても彼らはラインの外を目指していた。
一度そう思ってしまうと、今までのようにほのぼのした気持ちで見守ることができなくなった。
2人はきっとライバルだ。我先にと競うようにして外の世界へ飛び出そうとしている。
私はそんな彼らを見てハラハラが止まらなかった。
ガチャピンのつま足が外の世界へ!
文字通り、ガチャピンが一歩リードしているようだ。
いや、ムックも負けじと全身で攻めている。
ここでガチャピンによる妨害が!
体勢を崩しながらもライン越えを目指す2人
ガチャピンが大きく右にそれた隙をついてムックが前へ出る
ガチャピンも懸命に足を伸ばし対抗する
お互い譲れないデッドヒート!
果たしてどちらが先に店外へ飛び出すのか。自由を手に入れるのはどっちだ?!
同じような写真が続くので、ちょっとブレイク。これは美人のケルベロス。
そして、ついに運命の時が訪れた。
先に外の世界へ飛び出したのは……
ガチャピンだーー!!!
はじめこそハラハラしながら見守っていた私だったが、彼らの必死な姿にいつの間にか応援するようになっていた。
おめでとう。ヒモにつながれながらも、ついに自由の身を手に入れたんだね。感動で胸がいっぱいだ。
翌日、見えない力により彼らは店内に戻されていた。
それでも彼らは三輪車をこぐことをやめない。がんばれ、もう一度、今度こそ外の世界へ行こう。
二度目の決定的瞬間は思っていたよりも早く訪れた。
外の世界へ飛び出したのは……
今度はムックだーーー!!
本当によくやったと思う。本来、ラインより先は足を踏み入れることさえ許されない禁断の地。それを堂々とはみ出している。彼の勇気を称えたい。
翌日、強めに引き戻されてひっくり返っていた。ああムック……!
でもきっと何度だって彼らは起き上がるだろう。だって龍と鬼だから。すごく強いはずだから。
と思っていたら、店頭から彼らが消えた。
突然の別れに腰がくだけそうになった。
5か月間、ガチャピンとムックの様子を眺めるのが私の日課になっていた。毎日のささやかな楽しみだった。
もう彼らには会えないのだろうか。一体どこへ行ってしまったんだろう。
いや、もしかして本当にお店から飛び出して自由の身になったのかもしれない。
そう思うと少しだけ心が晴れやかになった。
後ろを振り返ると、店内の奥の奥のほうでデッドヒートを繰り広げている彼らがいた。
まだやってた!
がんばれ、戦いはまだ始まったばかりだ。
【おまけ】2人の勝敗結果
ガチャピン・・・18回
ムック・・・・・14回
引き分け・・・・ 8回
※ソロの日、回っていた日、子連れの日、後ろ向きの日などは除く