高尾山の思い出を追いかけて

高校を卒業して十数年経った。

嬉しいことに、当時仲の良かった5人グループでたまに飲み会を開いたりすることがある。

転勤だったり結婚だったり、誰かの転機をきっかけに集まるので頻度は低いものの、顔を合わせればまるで女子高生に戻ったかのようにみんなで盛り上がる。

かけがえのない楽しい時間だ。

 

飲み会で盛り上がるのは、決まって懐かしい思い出話だ。

中でも高尾山に行った時の話は何度しても良い。

高校を卒業してから、みんなで高尾山に登った。

メンバーの半分は高尾山が初めてで、想像以上にハードな山道に苦戦していたようだった。

トートバッグで来た子もいたし、可憐なバレエシューズで登った子もいた。無知ってこわい。

高所恐怖症の子は帰りの吊り橋でなかなか渡れずにいた。震えていた。大丈夫、がんばれ! みんなついてるよ! 手繋いでいこう! あ、トートバッグ持つよ!

そしてなんとか麓へ。みんなで助け合えば辛かった登山も楽しい思い出だ。友情って素晴らしい。

ところで、この高尾山の思い出話をする中で、どうしてもみんなに言えないことが1つあった。

 

その高尾山へ私は行っていない、ということだ。

 

ごく当たり前に「みんなで行った高尾山めちゃくちゃ良かったね!」みたいなテンションで話が進むので、到底言える空気じゃなかった。

幸か不幸か、私が参加していなかったことには、4人中1人も気づいていない。

というか、トートバッグで来て吊り橋で震えてたのは私、みたいになってる。いなかったのに不思議だ。

そんな高尾山に行っていない私が、どうして詳細に語れるかというと、このメンバーで集まる度に高尾山の話をするからだ。

たぶん現時点で、高尾山のエピソードを一番持ってるのは私だと思う。散らばったみんなの話をつなぎ合わせることで、誰よりも事実に近い位置にいる。

見たこともない登ったこともない高尾山。だけど私と高尾山の思い出は、確かに現実味を帯びているのだ。

 

 

 

思い出が先、登山は後

高尾山の思い出話を何度か聞いた数か月後、私は1人で高尾山へ行くことにした。

思い出を後追いすることで、思い出と事実の整合性を図ろうと思ったからだ。

 

 

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高尾駅じゃなくて高尾山口駅。危うく間違えるところだった。…というエピソードもあったかもしれない。

 

 

登山開始。

そもそも登山自体が初めてだったので、初心者向けの一番緩やかなルートを選んだ。

 

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思ったより混んでる。

でもコンクリートで整備された道はとても歩きやすかった。

 

 

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歩いている内に、フリンジのショートブーツが真っ白になった。

なぜ登山するのにこの履物をチョイスしたのか自分でもよく分からない。

でもバレエシューズを履いてきてしまった例のエピソードと同じような状況だったので、思い出に寄り添えた感じがした。

 

 

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途中で見かけた石碑。

話に聞いた「体の部位の石像」ってこのことだったのか。部位そのものの像を想像していたので、意外な形でびっくりした。字で来たか。

 

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こういうことかと思ってた。

 

 

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たこ杉。これがあの。確かに根っこがタコ足のようにうねってる。こちらは聞いた通りのタコ具合でほっとした。

思い出の確認作業は順調に進む。

 

 

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お団子も食べたらしいので、後追いで食べる。3本からの販売だった。残り2本。1人なので苦しい。

 

 

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「天狗」というワードも頻繁に出てくるのでチェックチェック。

 

 

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もしもこの顔をハメる穴が5つだったら…考えるだけでゾッとする。その場にいる人数と穴の数から、私がいなかったことがバレていたかもしれない。

危険なので遠巻きに眺めておいた。

 

 

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頂上からの景色。紅葉が美しい。空気もおいしい。高尾山に来て良かった。

 

 

 

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今回は登ったのは1号路(赤いライン)。

初級コースにも関わらずかなり膝にきた。


 

 

 

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日が暮れたら寒さと疲労でヘロヘロになってしまい、ロープウェイで下山することに。

街が近いおかげで夜景もきれいだった。

 

すごく疲れたけど、思い出を確認できてよかったと思う。

これで実質、私はみんなと高尾山に登ったことになる。ようやく思い出に追いつけたのだ。

 

 

 

 

帰ってから気が付いた。

吊り橋、渡ってない。

あの高所恐怖症を震わせる吊り橋。私が震えたという、手を取り合い協力して渡った友情の吊り橋。

 

でも登る道中で見かけなかった気がする。

 

 

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マップを見返すと、登った1号路ではなく、途中で分岐する4号路に吊り橋を発見。

ルート間違えた!

 

 

 

翌年、私はまた高尾山に来た。

思い出を完成させなくてはいけない。 

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今回はなぜか分からないけど真っ白なスニーカーで行った。

もう靴の思い出のくだりはコンプしてるので、ただのうっかりだ 。めちゃくちゃ汚れてへこんだ。

 

 

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天狗アイテムは集めておいて損はないので回収する。

「そこらじゅう天狗だらけだった」というエピソードは強いからだ。

 

 

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今回は6号路から登ってみた。

みんながこのルートを通った可能性は低いと思う。

6号炉は中級者向けで、沢沿い、というか途中で小さな川に足をつけるような泥々になるルートだからだ。

バレエシューズではまず無理だろう。泥々エピソードが誰からもなかったのが何よりの証拠。

さらに4人中2人は普段着、上級者向けの稲荷山コースを選ぶのも考えにくい。

途中で神社を参拝した話もあったので、3号路も通ることはないだろう。

総合すると、恐らくみんなは初級者向け1号路から登り、途中で神社を参拝し、山頂へ。帰りは4号路を下り、吊り橋を渡る。そして高所恐怖症の私は震えた、というストーリーだ。見えた、完全に見えたぞ高尾山。

こうして私は行っていない高尾山の思い出をものにしたのだった。

 

2回目の登山で、帰りは吊り橋ルートを通ったものの、はちゃめちゃな疲労困ぱいで、怖がるどころか写真を撮る余裕すらなかったのが悔やまれる。記憶もあまりない。

「吊り橋の時は写真も撮れないくらい大変だったな〜!」とコメントすることで思い出に対応したいと思う。

 

 

 

というようなことを3、4年前にやったのですが、それからみんなとの集まりがなく、思い出を持て余しています。

ありがとうございました。