家と駅が遠すぎる。
自宅から最寄り駅までバスで20分、距離にすると4km。
そのバスも、都内へ出かけて帰ってくる頃にはだいたい最終バスが出てしまっていて、家まで50分歩くことになる。
「最寄り」とは何なのか考えさせられる。だって全然寄ってないから。駅よ、もっとこちらに寄ってきてくれないか。
そんなこと思い続けて十数年、ある日思いついた。
引っ越したらよくない?!
この写真を撮ったあと、もしかしてうちの近所って田舎なのでは?! と住んで15年目にして気がついたので今すごく引っ越ししたい
— かとみ (@kato_mi) 2020年9月12日
近所の森を見て引越しを決意した。もっと駅が近い家に住みたい。
さよならレオパレス
ずっとレオパレスに住んでいた。「なんでレオパレス?」と聞かれることが多かったけど、大した理由はない。なんとなく決めてなんとなく住み続けていた。
よく言われる「壁が薄い」という噂はその通りで、隣の住人が蛇口をひねる音などがしっかり聞こえてくる。でも不思議と嫌な気はしなかった。
とはいえ、私自身はなるべく生活音を出さないように気をつけていた。玄関のドアノブを静かに回し、ドアの隙間からぬるりと部屋に入り、慎重にバッグを床に置き、沈みこむように横になる。そして周囲の生活音を聞きながら「人々の生活~」と思いながら過ごした。盗むことを忘れてしまった泥棒のような暮らしだ。慣れるとぜんぜん苦じゃない。
レオパレスに住んで一番思い出深いのは、インターホンが故障していたことだ。うちって人が全然こないなぁと思っていたら、ずっとインターホンが鳴っていなかったらしい。
気がついたのは入居して1か月経った頃だ。入居ガイドを読み返したら、設備の不備は入居から1週間以内に申し出ないと自費で修理になると書いてあって「あっじゃあダメだ」と思い、インターホンが壊れたまま12年経過してしまった。私の人生の中で一番熟成した「やればいいのにやらなかったこと」だと思う。
インターホンが使えなくて一番大変だったのは、宅配便の受け取りだ。
荷物を受け取りたい時は、部屋を無音にして配達時間の19時~21時のあいだ静かにして待たないといけない。静まり返る部屋、眠気で意識が飛ばないよう集中する私、こない注文の品。ただインターネットショッピングをしただけなのに悟りを開く勢いだった。
だから、もし今タイムマシーンを使えるなら、12年前に戻ってインターホンを修理したい。
そういえばインターホンはたぶん関係ないけど、夜中の2時に玄関のドアノブをガチャガチャされたことがあって、それが本当にこわかった。
鍵やドアチェーンがもし何かのはずみで解除されたらと思うと気が気じゃないが、夜中で頭が回らず、ホームアローンのドアノブをアツアツに熱するやつしか対策が思いつかなかった。
ようやく思いついたのがドアノブをつっぱり棒でぐるぐるに固定することだ。最善の策なのかこれは。でも安心して眠れた。
そしたら朝に家を出る時にこれを解除するのに時間がかかって遅刻しそうになった。
ドアノブがちゃがちゃ犯のせいで侵入するのも脱出するのも大変な家になってしまったので、私はヤツを絶対に許さない。
引っ越し準備
退去にむけて準備を始めた。
じゃんじゃん物を捨てていってるのに、荷作りが進むにつれてなぜか体積が増していく荷物。玄関がゲームオーバー直前のテトリスみたいになって外へ出られなくなった。この家は外に出られなくなることが多い。
運び出す段ボールの数はなるべく減らしたいので、一番幅をとる荷物をどうまとめるか考えた。
一番幅をとる荷物、それはかわいいかわいいポムポムプリンのぬいぐるみたちだ。彼らはふわふわで軽いけど、丸くて大きくてとにかく多い。
どうやって段ボールに詰めたかというと、
布団圧縮袋にいれて
こう!
掃除機の吸いが甘かったのか箱の中で膨らんでしまった。
せめて隙間を埋めようと思って追加でプリンちゃんを2体詰めた。
プリンちゃんは箱に詰まってるのに箱に詰まってるのを感じさせない余裕の表情なのがいい。本当にかわいい。好きだ。
かわいいかわいいとばかり言っていられないので、どんどんプリンちゃんを圧縮していった。
ああ~
あ~あ~~
なんでだろ、可哀想なのにおもしろい。個体が結合してこれから強くなる化け物の感じがあるけどかわいい。どんな形になってもかわいいから面白いのかもしれない。
プリンちゃんを含めて全部で段ボール20箱におさまった。荷造りついでに断捨離もできてかなりスッキリした。
断捨離があまりにも気持ちよくてノリでマットレスを捨ててしまい、2日間ベッドすのこの上にそのまま寝ることになった。体の背面がすべて終わってしまった。気持ちいいからといってマットレスを断捨離してはいけない。
入居先の部屋
新居はかなり独特だった。
レンガ調と木目調の壁紙がふんだんに使われていてすごい。部屋のどこに居ても質感に包囲されている。質感祭りだ。
ここに大量のポムポムプリンを配置したら、たぶん頭がおかしくなってしまうだろう。
壁紙を白いペンキで塗りなおすことにした。
壁紙を塗りなおすまではプリンちゃんを箱から出すのはお預け。段ボールからのぞくプリンちゃんもまたかわいくて思わず写真を撮ってしまった。
1か月後、壁紙を塗りなおして、カーペットとカーテンもシンプルなものに替えた。
ようやくプリンちゃんを飾れてうれしい。ベッド脇は特にお気に入りのプリンちゃんを置いてみた。
ガチャガチャ系の小さなプリンちゃんは、机の脇の棚にまとめて飾った。ああかわいい。
あとはベッドに寝転がった時に正面に見える壁にもプリンちゃんを配置してみた。
大きなプリンちゃんはつっぱり棒を2本使って浮かせた。ベッドで寝てるとめちゃくちゃ目が合う。
これでいつでもプリンちゃんを見られるし、また私もプリンちゃんに見られている、ということになる。うれしい。
新居で一から部屋をレイアウトするのは楽しかった。重要視したのはプリンちゃんの配置なので、他のインテリアなどにこだわりはない。
私の引越しの記録というより、プリンちゃんの引越しの記録みたいになってしまったが満足だ。
光るやつは間接照明にしています
おわり