店員間でお客さんにあだ名をつけてはいけない

昔、カフェでバイトをしていた時の話です。

 

当時、私はフリーターだったので、週6日ほど出勤していました。

毎日のようにお店で接客をしていると、何度か顔を合わせるお客さんは自然と覚えるようになりますよね。(でも常連さんに対して「いつもありがとうございます!」とかは言わないです)

 

お客さんを常連と認識するポイントはいくつかあって、

■来店頻度が高い

■来店時間が決まっている

■毎回同じまたは特徴的な注文をする

■独特な行動をする

というところが挙げられるでしょうか。

特に独特な行動をするお客さんはインパクトがあり、10年以上経った今でもたまに思い出すことがあります。

今回は、中でも特別に印象的だったお客さんのことを書いていこうと思います。

 

 

 

 

 毎日現れる長髪の男性 

見かけない日はないという位、ヘビーな常連さんがいました。

見た目は20代後半~30代、長髪で肌は焼けており、たまにフットサル帰りのようなスポーティー格好をしていました。

来店時間はまちまちで、いつ来ても3時間、長い時は6時間以上滞在するので、どの時間帯のスタッフも彼の存在を認識していました。

カフェなので滞在時間が長いのはそう珍しくないかもしれませんが、彼の存在感を主張する一番の理由は、席での不思議な動きにありました。

他のお客さんから

「あそこの席で気功をやってる方がいて気になるのですが…」

と言われ、あの不思議な動きは気功だったのか!と妙に納得したのを覚えています。

 

 

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まるでそよぐ海草のような手の動きが印象的でした。

 

他のお客さんからクレームが来てしまうのは仕方ないと思うのですが、本人に注意をする時って「お席での気功はご遠慮ください」とか言えばいいんでしょうか。

(他のお客さんに直接迷惑はかけてないし、気功を特別禁止してないしな…気を練ったり放出したりするのがダメなのかな…でも普通にしてても人って気を出すものなんじゃ…?いや、そもそも気って何?)みたいな気について深く考え込んでしまうので、なるべく彼には自発的に気功をやめてほしかったのが本音です。

で、ある日、彼が席を立って全身で気を練りだしたので、とうとう店長が注意しにいきました。

彼は「すみません」と言いながら今度はお店の外に出て気功をやり始めました。

お店は一面ガラス張りなので店内から見えるんですよね。気功ショーが。

その時、私は感動したのを覚えています。そんなにやりたいのか気功。むしろやらせてあげたいとすら思いました。

でも店長も負けるもんかと追って注意しにいきました。「敷地内での気功は危ないのでやめてください!」って。

もう何がどう危ないとか分かんないけど、ガラス越しに見る気功の使い手VSキレた店長戦は手に汗を握りました。

 

そういえば気功をする時は、仕組みはよく分からないのですが、汗をたくさんかくらしく、数時間経つとサウナから出たての人みたいにビショビショになってました。

そのせいか水をとにかくたくさん飲みます。セルフサービス用の水が入ったピッチャーを空にする勢いです。2リットル位入るやつ。

なので、彼が来店すると大急ぎで水を補充する必要がありました。

水だ、急げ!全部持ってかれるぞ!みたいなスタッフ間で水を切らさないよう連携する為、通常業務にはない団結力が生まれてました。

そして彼が来店すると明らかにコーヒーより水を入れていました。

あの水の攻防戦、やりがいがあって個人的には楽しかったです。

 

 

 

 

あだ名がついた

それまではその彼のことを「長髪の男性」とか「気功の人」「水をめちゃくちゃ飲む人」という感じでスタッフ同士で呼んでいました。

特徴的なお客さんってあだ名がつきがちですよね。あだ名つけられるのってお客さん側からすると怖いですよね。

 

いつものように例の彼が長時間滞在したのちに帰っていくと、バイト仲間のSくんが声を潜めて言いました。

「乳輪、今日も長かったな…」

ニューリン…乳輪?!思わず聞き返すと、Sくんはもう一度はっきりと

「だから、乳輪。やっと帰ったねって」

いやいや「はぁ~何度も言わすなよ」じゃないよ。

乳輪の意味が分からなかったのでSくんに理由を尋ねると「今日着ていたタンクトップから乳輪がごっそりはみ出てたから」とのこと。

もっと特徴あるけど。長髪とか毎日来るとか気功の動きとか水めっちゃ飲むとか、特徴しかないけど。

でもSくんは乳輪と呼ぶことに決めたようでした。いいけど、それ呼ぶ方が恥ずかしくない?

しかも一度乳輪が出ていただけでそんなあだ名をつけるのは、さすがにかわいそうなような…

 

 

 

 

乳輪がなじんでしまった

朝から元気なパートさん、アルバイトのかわいい女子大生、かっこよくて頼りになるバイトリーダー、おっとりした優しい夜勤さん……気が付くとスタッフ全員が「乳輪」というあだ名を使うようになっていました。なぜなのか。

そして例外なく私も「乳輪」を使っていました。恥ずかしいのは最初だけで慣れてしまえば結構口に出せちゃう。「乳輪」って。

ただ、かわいい女子大生がごく自然に「そろそろ乳輪用のお水補充してきますね!」と言った時は、(これ、いいのか?)と疑問が浮かんだこともありました。乳輪用のお水。そんな単語あるんだ。そんな単語を合法的に女子大生に言わせて良かったのだろうか。

とにかくスタッフ間では乳輪マヒが蔓延しており、毎日毎日、乳輪という言葉が店内を行き交う異様な現象が起こっていました。

 

 

 

 

乳輪の後遺症

5年ほどがっつり乳輪(というあだ名)を使いこんでいた為か、未だに乳輪というとあの長髪の彼が思い浮かぶし、身体の部位であるイメージが薄く、恥じらいなく言葉に出すことができます。

たぶん当時のバイト仲間たちもそうなのではないでしょうか。

 

そういえばそのことで思い出したことがありました。

私がバイト先を辞めて数か月後、友達と駅前を歩いていた時のこと。

目の前を乳輪がスクーターに乗って走っていくのを偶然見かけたのです。

それまで毎日顔を合わせていた乳輪を数か月ぶりに見て、しかもお店の外で見かけるレアな乳輪に、私はテンションが上がってしまい、つい大きな声で

「わ!今の走っていった人、乳輪だ!乳輪が走っていった!」

と興奮しながら友達へ伝えたら、

「おっきい声で乳輪って言うな!!」

とおっきい声で怒られました。

人前でおっきい声で乳輪と言えてしまう、これが乳輪の後遺症です。いや、もしかすると乳輪と呼んでいた私たちへの乳輪からの罰なのかもしれません。

今さら反省してももう遅いのでしょう。私たちに乳輪の恥じらいは返ってこないのです。

 

だからお客さんに変なあだ名をつけている店員さんは直ちにやめていただきたい。乳輪はだめ絶対。

 

 

 

おわり