下の階からSOSがあった話

コトの始まり

 

平日の昼下がり、いつものように職場で事務作業をしていました。

そこへかかってきた1本の電話からコトは始まります。

 

 

私「はい、〇〇〇事務所でございます。」

 

女性「すみません、●●事務所の者です!お願いがあってお電話しました!」

 

私「あ、下の階の。いつもお世話になっております。」

 

同じビルに入っている別事務所の女性の方でした。特別深い交流があるわけでもなく、エレベーターで乗り合わせた時に挨拶する程度のお付き合いです。

電話がかかってくること自体珍しいし、先方の慌てた様子から、私は少し緊張して聞き返しました。

 

私「お願いというと、どのような事でしょうか?」

 

女性「突然で申し訳ありません。あの、うちの事務所のインターホンを鳴らして頂けませんか?お仕事中でお忙しいところ、変なお願いですみません!」

 

私「え?いえ、それは構わないんですけど、そちらの事務所のインターホンを押しに行くという事ですか?今降りていってお伺いすれば良いですか…?」

 

いたって簡単なお願いでしたが、その趣旨が全く見えてきません。

どうも電話は●●事務所内からかけているようだし、わざわざ事務所外の人間にお願いする理由って何だろう。インターホンの故障?それにしたって女性のテンパり具合の理由が思いつかない。

 私の(???)という様子を察したようで、ここで状況説明が入りました。

 

女性「すみません!今、事務所に1人でいるところに、突然ガラの悪い男性2人が訪ねて来て、事務所のドア前から離れないんです。インターホンで応対しても帰ってくれないんです!すごく恐くて!だからインターホンを押しに来てくれませんか?!

 

なるほど、事務所の外に不審者2人組が来ていると。事務所の中からのSOS、という事ですね?

分かる。1人ぼっちで恐い思いをしてるのもよく分かる。でもそれ、私に依頼する案件じゃなくない?セコムか警察の出番じゃない?

私を呼んだところで、ボス戦でスライムを召喚するようなものでは…?

というかそもそもインターホン押しに行く意味…?

 

疑問は尽きませんが、先方の取り乱しっぷりに私もつられて、つい「じゃあ今から行きます!」と声高らかに出動宣言してしまいました。

 

 

 

  

 

戦いの準備

 

気が進まない。というか下手したら死ぬ気がする。用も無いお宅へインターホンを押しに行って死ぬってどういうこと?ファイナル・デスティネーションの世界のピンポンダッシュ?

でも下の階の人を見捨ててご近所トラブルに発展するのも嫌だしなぁ…。

考えている内に何故か死の恐怖よりも社会性を優先していました。

嫌だけど行くか…。

 

不審者2人と聞いた手前、さすがに丸腰で向かうのは無謀だろうと思い、デスクの上に何か身を守るアイテムが無いか探します。

ハサミやカッターなどの刃物を持ち出すのは死に急ぎすぎか。ならば、と手にしたのはボールペンでした。

その名もJET STREAMジェットストリーム

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100円という安価にも関わらず、驚くほど滑らかな運筆。一度握ったら病みつきになること間違いなしのボールペン。それがJETSTREAMです。

 

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初めて文房具店で見かけたのは7、8年前でしょうか。販促用の小さな液晶の中から松岡修造が熱くJETSTREAMの名を繰り返していて。JETSTREAMってボールペンのこと?!名前かっこいい!と驚いたのを昨日のことのように覚えています。

 

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近くにあった試し書きの紙へJETSTREAMの筆先を滑らせてみると、従来の油性ボールペンのインクにはない艶やかさ、また速乾性には驚いたものです。

それからはすっかりJETSTREAMの書き味にハマり、今もずっと愛用し続けています。

JETSTREAMは間違いなく最強のボールペンです。名前も超かっこいい。でも武器としてはひのきのぼうより弱いと思う。

デスクにこれしか無かったとはいえ、ボールペンを武器として持ち出そうとした時点で、正気ではなかったんでしょう。

 あと先に書いておきますが、この後JETSTREAMは一切活躍しません。

 

 

 

 

 

行ってきます

 

仕事中に外出する際は、もう1人の事務員さんに外出先と用件、戻り時間を伝えなくてはいけません。

「あの、下の階へインターホンを押しに行ってきます。万が一、長い時間戻らなかったら私の携帯へ電話してもらっていいですか…?」

 

コイツ大事そうにボールペン持って何を言ってるんだ、という顔をされましたが仕方ありません。 だって事実なんだから。

 

戦場に出向く兵士ってこういう気持ちなんだろうか。そんなことを思いながらエレベーターへ乗り込みました。

インターホン押して無事に戻ってきたら、私、午後の通常業務に戻るんだ…!

 

 

 

 

 

戦場の実態

 

 

ビルの構造を説明します。

各階に1事務所入居しており、エレベーターから降りるとこじんまりとしたエレベーターホール、そしてすぐ正面に事務所の入口ドアです。

となると下の階に到着してすぐ不審者2人と対面することになります。

 

びっくりしました。下の階へ着きエレベーターのドアが開いた瞬間、座り込んでいる宍戸錠梅宮辰夫みたいな強面の2人と目が合ったので。

ほんとにいた。って。

 

不思議と頭が真っ白の状態でも「インターホンを押さなくてはいけない」という使命感だけで体は動くもので、私はインターホンへ向かって突き進みました。

(宍戸錠と梅宮辰夫から完全に見られてる…!)地獄の食いしん坊万才コンビが、食材を吟味するようなねぶる視線を私に送ってきているのをハッキリと感じ取りました。生きた心地がしない。まだ死んでないのに全身死後硬直が始まっている気もする。私はすでに死んでいる。

エレベータからインターホンまでのほんの数mが遥か遠くに感じられました。

時間にすればほんの数秒。長かった。ついにインターホンを鳴らします。

 

すると中から「はいはーい」と軽快に顔を出す女性。

 

は?

 

 

 

 

 

コトの真相

 

真相はこうです。 

宍戸錠と梅宮辰夫はただの迷子でした。他の事務所へ訪ねるはずが、間違えて訪問してしまったみたいです。2人とも携帯電話を持っておらず、行くべき事務所名も住所も分からないと途方にくれて、エレベーターホールに座り込んでいたようでした。いや、座り込むなよ。

全容が明らかになったのは電話でSOSを発信し終えた後だったようで、ちょうど私が「JETSTREAMで行くっきゃない…!」とボールペンを握りしめている頃です。

えー、そうですね、思う事はたくさんありますが、シンプルに心境を表すと、

お前ら何なんだ。ですね。

 

 

 

 

 

生還、そして学んだこと

 

こういった緊急事態に陥った際どう対処するかによって、人の本性は見えてくるのではないでしょうか。

私の場合は、役に立たないものを持ってとりあえず火事場に突っ込む、とバカの見本市みたいな行動をしてしまいました。今後は落ち着いて役に立たないものは捨てて、火事場には突っ込まないようにしたいです。

 

あと、こういった事態に向けて身を守る防犯グッズを備えておくべきだなぁと思いましたので、事務所に戻ってからすぐにネットで検索しました。

 

 

暴徒鎮圧に! 新さすまた 御用 1号 (胴体捕捉用)
 

 

”暴徒鎮圧に!”

でもこんなの持ってたら本当に緊急要請されそうだな、と思ってまだ買っていません。買った方がいいですか?

 

 

以上です。