「ザ・クレープ」それは大人を翻弄する恐ろしいアイス

 

 

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「ザ・クレープ」というアイスを買った。

たしか子供の頃からお世話になっていたのは「クレープ屋さん」という名前のアイスだった。

どうやらリニューアルしたらしい。パッケージもシックで大人っぽくなった。

ずいぶんお堅い雰囲気になって、まるで別人のようだ。

 

 

 

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開封してみよう。

パッケージの指示どおりに、包装のフチを点線にそって切り取る。

 

 

 

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今度は側面からめくって、ぐるりと剥がしとる。

クレープ屋さん時代からやり方は変わっていない。楽勝、楽勝。

 

 

 

慣れた手つきでザ・クレープを裸にした瞬間だった。

完全に油断していた私は耐えがたい衝撃に襲われた。

 

 

 

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大量のビスケットクランチが地面へ落ちていったのだ。

 

穏やかな陽気の下、非常階段で私は声を上げそうになった。

本当にショックだった。

そんなジャイアントコーンみたいなノリで、クランチがふりかかってるなんて思ってもみなかったのだ。

 

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足場が細すぎる。ほんの些細な衝撃でクランチ達は奈落の底だ。

カイジでもこんな感じの鉄骨渡りをしていた気がする。もうこれはギャンブルといっていいんじゃないか。

大量のクランチを失ったショックと、危険なギャンブル性に感情がぐちゃぐちゃになった。

 

それでも時は残酷だ。ザ・クレープは容赦なく溶けていく。

私は慌ててザ・クレープを頬張った。

 

  

……やだ、おいしい……

 

 

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薄くてもちもちとした皮

 

 

 

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クリーミーなバニラアイスと、存在感のあるザクザクのチョコ

 

 

  

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そして、これまでにないゴージャスなトッピング、ビスケットクランチ

 

  

食感を遊ばせている……

大人だ。完全に大人のクレープ。

あの懐かしくて、ちょっとチープな「クレープ屋さん」の面影はどこにもなかった。

知らない間にこんなにも進化していたなんて。

 

 

 

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私は食べ進める前に、無意識に包装の下半分を脱がしていた。

アイスが柔らかくなってからでは包装が外しづらくなるのを体が覚えていた。

たとえ姿を変え味わいが進化しても、クレープ屋さんイズムは私たちのなかに息づいているのかもしれない。

 

  

  

それから毎日のようにザ・クレープを食べた。

 

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相変わらずビスケットクランチは滑り落ちていく。どんなにそっと包装を剥いても、寝かせたり立てたり体勢を工夫しても、じゃんじゃん落ちていく。

その度に私は感情を揺さぶられながら、それでもザ・クレープを食べるのをやめられなかった。

いつも違う姿を見せてくれるザ・クレープに夢中になっていた。

 

 

 

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野球少年の坊主頭のように、ちょぼちょぼとくっついたビスケットクランチ。ほほえましいじゃないか。


 

 

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この日も多くのビスケットクランチを失ったが、バニラアイスの海に浮かんだチョコの大陸が美しくてため息が出た。

失うことの悲しさに縛られず、広い視野を持ってすべてを受け止めていきたい。

 

 

 

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ビスケットクランチがバニラアイスに埋まり気味の日もある。

がっちりとホールドされたビスケットクランチほど心休まるものはない。

心なしかクレープ生地も全体をしっかりと包み込んでくれている。

こんな休息日もあっていいだろう。

 

 

 

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包装を破る時に、ビスケットクランチをアイスに押しつけるよう意識するとロスが減ることに気づいた。

しかしこれはもろ刃の剣。手の熱で溶けたアイスが包装にくっついて今度はアイスをロスしてしまうのだ。

ひとつ求めれば、ひとつ失う。

こうして人は成長していくのかもしれない。

 

 

 

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チョコの流脈をはっきりと確認できた日は当たりだ。

どのタイミングでザクザクのチョコを口へ放り込むか計算しやすいからだ。

ザ・クレープは行き当たりばったりで食感を堪能するのもいいが、頭脳プレイで攻略するのも面白い。

 


  

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やっぱり多くのビスケットクランチが生き残ってくれた日は嬉しい。

幸福感とともに味わうザ・クレープは何よりもごちそうだ。

 

 

 

 

ひとつのアイスでこんなにエンターテイメントを感じたのは初めてだ。

一度は完璧にビスケットクランチを死守したいと攻略に燃えたが、今はもうその思いはない。

私は個体差ごと受け止めたいと思っている。

どんな形でも向かってきてほしい。

ザ・クレープを丸ごと全部愛したい。

 

 

 

おわり