2月21日正午、第5回オモコロ杯の結果発表があった。
ランチを食べながらオモコロのページを開くと、なんと自分の記事が受賞していた。
驚きと喜びで何も考えられない。頭がポーっとする。
しばらく喜びに浸った後、夢見心地で思った。
そういえば賞品で大トロ1kgを頂けるんだよなぁ…。
大トロ1kgを…、大トロ1kgも?!
私はハッと目を覚まし、食べかけのモツ煮定食を急いで喉へ押し込み、スーパーへ駆け込んだ。
マグロ切り落としを見つめながら震えあがった。
マグロが、しかも大トロが、1kgの塊が家に来る!
2月22日、中トロを食べてみる
昨日の感情の昂ぶりが治まらず、お寿司セットを買った。
なかに中トロが1貫入っている。
美味しかった。
中トロでこれだけ美味しいのだから、大トロの旨味がどれだけのものか想像もつかない。
…いや、待てよ。
今までまともに大トロを食べたことがない気がする。
そもそもマグロ自体、真剣に味わったこともない。
私はこんな無知な状態で、大トロを100の気持ちでお迎え出来るのだろうか。
2月23日、赤身を食べてみる
私はマグロをもっと知らなくてはいけない。
大トロを食べた時に「こんな極上な大トロ、今まで食べたことない!」と涙を流したい。
その為に、大トロ以外の部位も勉強しておこうと思う。
今日のお昼は磯丸水産の2色マグロ丼に決めた。
赤身とトロで2色なのかと思ったら、どちらも赤身だった。白いほうはビンチョウマグロという名前らしい。
どちらの赤身も、昨日食べた中トロと比べると物足りない。
やはり脂の量に比例して旨味もアップするのだろうか。
1食分のマグロの量が気になったので、測定してみた。
約100g。私はこの10倍の量の大トロを食べることになる。
これ位の量になるのか~と想像してみたら興奮した。
2月24日、マグロのフライを食べてみる
カジキマグロを挟んだパンを見かけた。
マグロといえばお刺身のイメージが強い。考えもしなかったけど、フライもアリかもしれない。
今日のお昼はカジキマグロのサンドにしよう。
想像よりもジューシーだった。味は淡泊、クセもなく食べやすい。
全体量は172g。フライ部分は約70g。
仮に大トロ1kgをまるまる揚げた場合、これの14倍の大きさのフライが作れる計算になる。
想像してみた。食べ物は大きければ大きいほど良いので、興奮が止まらない。
2月25日、回転寿司へ行く
マグロを知るならお寿司は外せないだろう、ということで回転寿司へ。
トロたく巻き、漬けマグロ、赤身マグロ。お寿司はバリエーションがあって良い。
特にトロの叩きとたくあんを合わせた「トロたく巻き」が気に入った。
トロたく巻きは、ひと皿につき15gのトロが使われているらしい。
ということは、大トロ1kgで66皿のトロたく巻きを作れる計算になる。
想像した。2m近い高さだ。
夢の大トロタワー、ぜひ見上げてみたい。
せっかくなので大トロの握りも体験したい。
ミナミマグロという種類のようだ。本マグロとは別物だろうか。
よく分からないが、大トロには違いないので注文した。
想像よりも身が締まっていて、噛みごたえのある食感。そして口に残る脂。
これが大トロ…! バカみたいに美味しかった。
1kg全部をトロたく巻きにするのは愚かだと分かった。大トロは普通に切り身にして食べたい。
2月26日、マグロの種類を調べる
「ミナミマグロの握り」「ビンチョウマグロの丼」「カジキマグロのフライ」。
4日間マグロと共にして、マグロにもいくつか種類があることを知った。
特徴や味の違いを表にまとめてみた。
同じマグロといっても、味や加工方法などに差があるようだ。
私が頂ける本マグロは、「海の黒ダイヤ」と呼ばれているらしい。アツい。
ショックだったのは、カジキマグロは分類上マグロとは別物であるということ。
騙された。偽マグロのフライを頬張って喜んでいた自分が恥ずかしい。
今日はまだ食べたことのないメバチマグロに挑戦したいと思う。
メバチマグロのステーキの缶詰。
サラダの上へ適当に乗っけたら、 緑黄色野菜をお供えしたお墓みたいになった。
今後は盛り付け例をちゃんと参考にして、美味しそうに盛り付けたい。
温めずにそのまま食べたからだろうか。パサパサでイマイチだ。
2月27日、マグロフレークを食べてみる
今日はマグロのフレーク。マグロの種類は不明。
昨日と同じくサラダに乗っけたら、紛れもないツナサラダになった。
あまり参考にならないランチになってしまった。
2月28日、1kgの大きさを考える
改めて大トロ1kgがどの程度の大きさなのか考えたい。
そして「大きいな~!」と思いたい。
例えば、大トロを1kgを丸々使って、巨大なお寿司を作ったらどうなるのだろうか。
1貫あたりネタ15gで計算したところ、1kgで縦24cm×横64cmのネタが出来そうだ。
ちょうど手元に大トロみたいな色のファイルがあったので、サイズ感を再現してみた。
私は事務用品を整理しているフリをしながら、疑似大トロを目の前にして密かに興奮した。
このサイズって…生後半年の赤ちゃんと同じじゃないか。
赤ちゃんサイズの大トロ寿司を一体どうやって握れというのか。
横に寝かせてこう握るのだろうか。
それとも縦にこう?
イマジネーションが止まらない。
この日、オモコロ編集部の永田さんから、大トロ送付の旨のメールをいただいたので急いで返信した。
本当に毎日、大トロのことばかり考えている。
3月1日、マグロの盛り合わせを食べてみる
スーパーでマグロの盛り合わせを買った。
3種類のマグロの、赤身と中トロが入っている。今までのおさらい的な盛り合わせだ。
それぞれ美味しかったが、どれがどれだかは分からない。
でも食べ比べが目的じゃないのでそれで良い。
私は行きずりのマグロを食べながら、まだ見ぬ極上のマグロを味わっているのだ。
3月2日、大トロを作ってみる
何せ「本物」の大トロが来るのだ。是非とも「これが本物か」と唸りたい。
確実に「本物」を感じる為にはどうするべきか。
答えは簡単だ。偽物を作ってしまえば良い。
伊東家の食卓の裏技を思い出しながら、偽物の大トロを作る。
まず、マグロの赤身にマヨネーズを和える。
朝、誰よりも早く出勤し、薄暗い給湯室でマグロにマヨネーズを塗りたくった。
幸いなことに「給湯室でマグロにマヨを和えないこと」という就業規則は無い。
しかし、いつ誰が来るか分からない状況で、マグロにマヨを和える不安は底知れなかった。やるなら家でやるべき。
3時間ほど浸けた後、キッチンペーパーでマヨネーズをふき取って、偽大トロの完成。
大トロっぽくてウケた。作る過程はあんなに気味悪いのに大トロになっちゃった。
若干、マヨネーズの風味があるものの全然イケる。
もしかすると本物の大トロに勝ってしまうかもしれない。
3月4日、マグロの本体を拝みに行く
大トロという部位を頂戴するにあたって、マグロの本体も是非見ておきたい。
ということで水族館へ。
入口でマグロと背比べできるパネルを発見。
この写真を撮る為に、家族連れがいなくなるまで30分待った。
もしも私が止まると死ぬマグロだったとしたら、たぶん10回は死んでいる。
あと、近くの係員さんに
「あのパネルのマグロは何ていう種類ですか?」
と尋ねたら、
「え…? ちょっと分かんないです…」
と怪訝な顔をされたので、精神的にプラス1回死んでいる。
でも大トロ部分をまさぐれたので嬉しかった。
美しい熱帯魚や珍しい深海魚を全てスルーして、マグロの水槽へ。
まさに我が家にお目見えするものと同じ種類、クロマグロ!
大トロがダイナミックに目の前を通過していく。
大トロが近い!
遠くの大トロ部分もしっかり捉えておきたい。
怒涛の大トロラッシュに目が離せなかった。
水族館併設のレストランで、まぐろカツカレーを発見。
しかもキハダマグロを使っているようだ。キハダマグロは未体験だったので食べない手はない。
やはり火を通すとパサパサになる。なので、カレーのルーと食べるとちょうど良い。
これで本マグロ以外のマグロを全種類食べたことになる。
本マグロをお迎えする準備は万端だ。
3月5日、磯丸水産を攻めてみる
大トロが届くまで毎日マグロを食べ、研究すると決めていた。
ところが、いざマグロを扱っているお店を探してみると、なかなか見つからない。
そこで頼りになったのが磯丸水産だ。
バリエーションに富んだマグロ丼。磯丸水産ばんざい。
まぐろユッケ丼。甘辛いタレがおいしい。
明日からは磯丸水産の様々なマグロ丼を攻めようと思う。
3月6日、まぐろとろろ丼を食べてみる
マグロととろろの鉄板コンビ。
3月7日、あぶり3色丼を食べてみる
手前の赤っぽいのがマグロ。
3月8日、まぐろ漬け丼を食べてみる
うん、マグロ。
3月9日、まぐろ3色丼を食べてみる
マグロだね。
約2週間、色々な形でマグロを食べ続けた。
実は1週間目あたりでマグロにめちゃくちゃ飽きていた。ミラノ風ドリアを食べたくて仕方がなかった。
なぜ私は食べたくもないマグロを食べ続けなくてはいけないのか。
自問自答の毎日。もうマグロを食べたくない。けれどそれは許されない。ランチというささやかな楽しみをマグロに奪われ、私の感情は死に、心がマグロになった。
そんな日々もようやく終わろうとしている。
今夜、ついに大トロが届く。
3月11日、いよいよ大トロを食す
ついに大トロを食べる時が訪れた。
独り占めすることも考えたが、友人と一緒に食べることにした。
それにしても、待ちに待った大トロはどんな味わいなのだろうか。
私の死んだマグロような心で、大トロに見合った立派なコメントが出来るだろうか。
コメントといえば、食レポにありがちなパターンで、脂の乗った魚に対して「お肉みたい!」と褒めるというのがある。
あのコメントだけはいつも腑に落ちない。魚を肉に例えるって何なんだ、と思っている。
やだ、ちょっと……お肉みたいなんだけど!!
脂の乗った魚をお肉に例えてしまうのは、意識とは無関係に起こる反射だと思う。
絶対に全員言う。お肉みたいって。
ベーコン? ベーコンじゃない?
見たことも切ったこともない大トロを前にパニックになり、どうしても身近なお肉に例えてしまう。
手の熱で脂が溶けて、切ってるそばから脂がじゅわじゅわ溢れ出てくる。
私も友人も興奮が止まらなかった。
大興奮のクッキングタイムを終え、海鮮丼が出来上がった。
美味しかった。本当に美味しくて、何なら場の空気がしんみりするくらい。
そして友人がぽつりと言った。
「こんな大トロ食べたことないよ…。」
2週間準備を整えてきた私よりも先にそのセリフを言ったので、気絶しそうになった。
でも本当にそう、こんな大トロ食べたことない。
焼いてもパサつくどころか、ジューシーだった。
ゾッとした。大トロの旨味、底なしだ。
ありがとうございました
オモコロ編集部様
この度は大層な大トロを頂きまして、ありがとうございました。
普段食べるマグロとは別次元の大トロでした。本当、お肉でした。