サウナは良い、という話をよく聞く。
でも私はサウナをよく知らない。何度か入ったことはあるけど、特別な感情を持ったことはなかった。
世の中にはサウナと似た岩盤浴というものもあるらしい。岩盤浴の存在は前々から気になっていた。でも実際には見たこともなかった。何となく温かそうな砂利の上で人が寝そべってる画が浮かぶくらい。
なのでサウナ中毒の人に岩盤浴について教えてもらった。
岩盤浴とはこういうものらしい。
■岩盤浴はサウナの刺激弱めバージョン
■温かい石の上で20~30分寝転がる→外の空気で涼む、を繰り返す
■岩盤浴はサウナほど脳内麻薬が出ないけど、ゆるやかなキマリがある
■サウナを本番ありのゴリゴリなアダルトビデオだとすると、岩盤浴はちょっとエッチなイメージビデオ
一番最後の説明は分からなすぎて笑ってしまった。
サウナ中毒の彼はサウナの話をする時、恋愛や性に例えることがよくある。サウナを愛しすぎているからだろうか。たまにサウナを抱く、サウナに抱かれるみたいなことも言う。どっちなんだ。
彼をそこまで夢中にさせる魅力とは一体何なんだろう。
ということでその魅力を教えてもらうため、初心者に優しい岩盤浴のあるスパへ行ってきた。
サウナは苦行?
場所はらくスパ鶴見、設備の充実度が最強らしい。
鶴見駅かららくスパへ向かうバスの中で、サウナについて話をする。
どうも聞いていると、サウナの室温は高く、水風呂は水温は低い方がキマりが深いらしい。(水温が1ケタ台の水風呂をシングルと呼ぶのがかっこよかった。)
サウナで得る快感は血管の収縮によるものだろうから、温度差があればあるほど良いという原理は分かるのだけど、確か彼は前にこんなことを言っていたような気がする。
少しずつサウナと水風呂の温度差を縮めていって、最終的には日向から日陰に入っただけで脳内麻薬が出るようになりたい。風が吹くだけで「ピース!」となるようなハッピーな体になりたい、と。
ところが最近は、サウナに熱さを、水風呂に冷たさを求める傾向にあるという。
それだと温度差を縮めるどころか理想と離れていってるのでは?そんな私の疑問に彼は穏やかな顔で答えてくれた。
「ブッダは苦行の末に、苦行では悟りを開けないと気づいて、苦行をやめ、悟りに至った。苦行は直接悟りに至るものではなかったけど、無駄ではなかった。今のサウナはその苦行の段階。」
彼は仏になろうとしてるのか。スパの残り香のするほっこりしたバスが、突然、壮大なスケールになってしまった。こわい。
サウナ仏と一体どんな体験ができるのか。こわいけれどワクワクが止まらなかった。
岩盤浴のタイプによって楽しみ方が変わる
入館し、着替えを済ませて、さっそく岩盤浴に入ることに。6種類もあってどれにしようか迷う。アトラクション感があって興奮する。
館内着のまま入れるのもいい。大人数で来ても楽しめそう。
小石の上で寝そべってみた
まずは小石の上に寝そべるタイプの岩盤浴へ。
室内は満員にも関わらず静まり返っていて、薄暗さの中でかすかに人の息遣いだけが聞こえる。
極力を音を立てないよう石の上にタオルを敷き、慎重にタオル目掛けて体を預ける。
上下の位置を見誤ってしまい、ブロックの枕と後頭部の位置が合っていなかった。フィットさせようと体をずらす度に小石が鳴る。ゆっくり、意識すればするほど音を立ててしまう。人の気配だけがする静かな空間。定まらないベスポジ。ずれ始める体の下のタオル、鳴りやまない小石の音。じゃりじゃり、ごそごそ、ごめんなさいごめんなさい。
変な汗をかいてしまった。
初めての緊張感からどうして良いのか分からないまま20分過ごす。エレベーターで見知らぬ人と乗り合わせた時の感覚に近かった。無言の気まずさがすごい。
たぶん変に意識しすぎたせいなので、経験を積んでリラックスして寝転がれるようになりたい。
サウナみたいな岩盤浴でキマる
次に入った岩盤浴は座るタイプで、ガラス張りで解放感のあるおかげか緊張せず入れた。室温は岩盤浴にしては高め、というか低めのサウナという表現の方がしっくりくる。
彼とああでもないこうでもないと世間話をしながら良い汗を流す。
テラスのベンチで休憩をした。たまに吹く外の風が体の火照りを優しく冷ましてくれる。
噂によると、この温まった体を冷やしてる時に「キマり」や「イキ」が訪れるらしい。
私はそれがどういう感覚なのかはまだ理解できていなかった。汗を流してスッキリする気持ちよさとはたぶん違うのだろう。
話を聞く限りでは、天井がぐるぐると回る感覚とか酔っぱらった状態に近いらしい。どうにか体験してみたい。
ふと彼の方へ目をやると、目がイッていた。
まばたきをせず一点を見つめ続けていた。最初は、何を見てるんだろうと思ったけど、彼の視線の先を追ったら宙しかなかった。
人のイッてる顔を見ることってそうそう無い。
視線がおぼつかないというような酩酊状態を想像していたけど、完全に静止状態、まるで蝋人形のように固まっていた。
思わず「大丈夫?!」と声をかけたら
「けっこう今いい感じ」
とのことだった。
そうか、イクって無の状態になることなのか。
プラネタリウムの岩盤浴は寝苦しい
寝そべりながら天井の星座を眺める。キレイ。だけど星座の知識に乏しくよく分からない。夏の熱帯夜ぐらいの微妙な室温も手伝って、頭上に「?」が出てしまう。
何となくロマンチックな話でも聞きたいわねってことで出た話が交通事故の話。「惹かれる」と「轢かれる」が良い感じにかかってるだの、でもそれはロマンチックじゃないだの言っていたら、最終的にイカつい看守みたいな係員さんに静かにしろと怒られた。
コントみたいで面白かった。
ロウリュウで熱風を浴び、再びキマる
最後はまたサウナスタイルの岩盤浴へ。
タイミングよくロウリュウ(係員さんがうちわで扇いで熱波を浴びせてくれる)の時間だった。
しかもRORYU BOYS8というパフォーマンスグループが盛り上げてくれるらしい。
具体的にはお客さん全員でしりとりをしたり、学園天国でコール&レスポンスしたり、タオルを回したりした。こういうのは全力で参加した方が楽しいでちゃんとやりたい。
RORYUBOYS8が汗だくで軽快なトークをしている最中、隣の彼は宙を見つめながらイッている状態だったのだけが気がかりだった。(しりとりやタオル回しはちゃんとやってた)
体が冷えた時がイキのタイミングだと思ってたけど、繰り返す内にサウナに入ってる時でもキマるようになるのかもしれない。
サウナ愛を確認できた1日だった
最後にまたテラスで休憩をした。ほんのり涼しい夕方の風が気持ちよかった。
自分自身、キマったのかよく分からなかったけど、ふわふわとした心地よさを感じた。確かにほろ酔いに近く、でもそれよりも穏やかで爽快で、少しの頭痛と疲労感もある。これを洗練していけばキマるのだろうか。いつか極めたい。
サウナのキマりを語っている時に、ふと彼が
「注射でサウナの成分を体に取り込めてイケれば良いのに」と物騒なことを言っていたのはこわかった。もうそれサウナじゃなくて良いのでは。
彼にとってサウナは恋愛で、仏への道で、ヤクである。ぶっとんでいる。
この後、お風呂へ入り、1時間後に彼と顔を合わせて驚いた。
沐浴した後の赤ちゃんみたいな顔をしていた。どうやらサウナをキメてきたらしい。通りでツヤツヤなはずだよ。炊き立てのお米みたいだよ。
幸せそうな彼を見て、なるほどサウナっていいなって思った。
スパはアミューズメントパークみたいでとても楽しかった。また行きたい。
サウナもどんどん行ってみよう。もっと知りたいサウナのこと。
以上です。